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【原神・聖遺物】マルコフモデルによる「来歆の余響」4セット効果の発動率解析

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概要

聖遺物の「来歆の余響」4セット効果は通常攻撃にバフが入ることがあるが,このバフの発動は確率的でがわかりづらく.「単純に火力はどれくらい伸びるのか?」が計算しにくい.

本記事では,この余響のバフが発生する確率を計算してみた.

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図1:来歆の余響4セットは,ダメージに天賦倍率70%がときどき加算される1
手数が多い放浪者などに装備するとベター.



結論:バフ発動率の平均は50%

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図2:通常攻撃を振る回数(横軸)に対する余響4セット効果の発動率(縦軸)

通常攻撃中を振っていくと 50.2%の確率 でバフが発動する(図2).

よって4セット効果は「常に天賦倍率35.1%が加算される」と雑に考えて良い.

実際,海外のノエル育成ガイド2では余響4セットの提案がされており,その中で同じようなダメージ強化の説明がなされている.(図3,4).

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図3:KQMによるノエル育成ガイド.
「余響4セットはノエルの通常攻撃に平均 35.1% の追加天賦倍率を与える」との説明.

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図4:ノエル育成ガイドで用いられているダメージ計算式3より抜粋.
余響のバフ発動確率は50.20%一定で,ノエルはワンローテで5N4(計20回)攻撃すると計算されている.

目的:4セット効果発動率の平均を求めること

求めたい発動率の平均は,以下で表現できる.


\begin{align*}
    &\quad ( \text{通常攻撃を振るときの効果発動率の平均} )\\
    &= 
    \sum_{s = 0}^{4}
        (
            \text{効果未発動から通常攻撃を} s \text{ 回振っている確率 }
        )
        \cdot
        (
            \text{ バフが発動する確率 }
        )\\
    &=
        p(s = 0) \cdot 36\% + 
        p(s = 1) \cdot 56\% +
        p(s = 2) \cdot 76\%\\
    &\qquad + 
        p(s = 3) \cdot 96\% + 
        p(s = 4) \cdot 100\% 
\end{align*}

マルコフモデルによる余響バフの考え方

状態と観測

通常攻撃を振り続けるときに,「バフ未発動から何回振ったか?」を状態(state)と呼び,4セット効果のバフが発動するか否かを観測(observation)と呼ぶことにする.

これらの確率分布を扱うので,「 バフ未発動から通常攻撃を 1 回振っている確率」を p(s = 1) と書くことにする.同様に p(s = 0), p(s = 2),p(s = 3),p(s = 4) が用意できる.

同じく「バフが発動しない/する確率」をそれぞれ p(o = 0), p(o = 1) で書く.

さきほど述べた「求めたいバフ発動率の平均」は p(o = 1) である.

また,確率ベクトルの表現を以下用いる(式(1)).


\begin{align}
    \boldsymbol{p} (s) =
        \begin{pmatrix}
            p(s = 0)\\
            p(s = 1)\\
            p(s = 2)\\
            p(s = 3)\\
            p(s = 4)
        \end{pmatrix}
        \qquad 
        \boldsymbol{p} (o) =
        \begin{pmatrix}
            p(o = 0)\\
            p(o = 1)
        \end{pmatrix}
\end{align}

マルコフモデルの定式化

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図5:来歆の余響4セット効果のマルコフモデル
ノードがバフ未発動から通常攻撃を振っている回数で,バフ発動で状態がリセットされる(左のノードに戻る).
通常攻撃を振った回数に応じてバフ発動率が変わる.

攻撃時のバフ発動率は,直前に振った攻撃回数のみに依存する.

このように,状態の確率が,前の状態のみで記述できるマルコフモデルで本問題を捉えると以下のように定式化できる.


\begin{align*}
    \boldsymbol{p}^{t + 1}( s )  &=
        \boldsymbol{A}\ 
        \boldsymbol{p}^{t} ( s )
        :\text{ バフ未発動から通常攻撃を振る回数の状態遷移 }
    \\
    \boldsymbol{p}^{t}( o ) &= 
        \boldsymbol{B}\ 
        \boldsymbol{p}^t ( s )
    :\text{ バフが発動するか否かの観測 }
    \\
    \text{where } 
        s &\in \{0, 1, 2, 3, 4\}
            \quad
            o \in \{0, 1\}
        \\
        \boldsymbol{A} &= 
        \begin{pmatrix}
            36\% & 56\% & 76\% & 96\% & 100\%\\
            64\% &  &  & & \\
            & 44\% &  & & & \\
            & & 24\% &  &  & \\
            & & & 4\%& \\
        \end{pmatrix}
            : \text{ 状態遷移確率 }
        \\
        \boldsymbol{B} &= 
        \begin{pmatrix}
            64\% & 44\% & 24\% & 4\% & 0\% \\
            36\% & 56\% & 76\% & 96\% & 100\% \\
        \end{pmatrix}
            : \text{ 発動回数の観測確率(出力確率) }\\
        \boldsymbol{p}^{1} ( s ) &=
            \begin{pmatrix}
                100\% \\
                0\% \\
                0\% \\
                0\% \\
                0\%
            \end{pmatrix}
            : \text{ 初期条件 (Nを振る回数は0からスタート)}
    \end{align*}

結果:バフ発動率の平均は50%

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再掲:通常攻撃を振る回数(横軸)に対する余響4セット効果の発動率(縦軸)

バフはどれくらいの割合で発動するのか?ずっと課題にしていたこの値を,通常攻撃を振る回数に対してプロットしたのが上のグラフになる.

次の3点が分かる.

  • Nを1回だけ振るとき,発動率は低い (36%)
  • Nを3回振るとき,もっとも発動率が高い(約51%)
  • Nを十分振ると,発動率は 約50% に収束する

冒頭で述べたように,余響4セット効果は だいたい50%で発動するので天賦倍率35%が加算される でアバウトに計算するのが妥当(終).

発展内容:定常分布の解析

ここからは発展内容なので

つい先ほど述べた,「発動率は約50%に収束する」を解析的に求める.

十分Nを振ったとき,バフ未発動からNの振る回数 s の定常分布  \boldsymbol{p}^{\infty} ( s ) は分布が遷移しても変わらない条件と確率和1の条件から解析的に求められる( 式(2) ).

その結果を用いると定常時におけるバフ発動率の平均が約50%になることが分かる ( 式(3) ).


\begin{align}
    \begin{cases}
        \boldsymbol{p}^{\infty} ( s ) &=
            \boldsymbol{A}\ 
            \boldsymbol{p}^{\infty} ( s )\\
        \text{s.t.} \ \sum_s p^{\infty} (s) &= 1
    \end{cases}
    \qquad \therefore \boldsymbol{p}^{\infty} ( s ) &= 
        \begin{pmatrix}
            50.2\%\\
            32.1\%\\
            14.4\%\\
            3.39\%\\
            0.136\%
        \end{pmatrix}
\end{align}


\begin{align}
    p^{\infty} (o = 1) = \sum_{s} p^{\infty}(s) p(o = 1|s) = 50.2\%
\end{align}

付録 (発動率の詳細な表)

グラフで書いた数値を30回までNを振ったときまで表にまとめた.

(クリックして展開)
Nを振る回数 バフ発動率の平均
10.36
20.48800000000000004
30.51872
40.5035648
50.49769277440000004
60.5032963645440001
70.5023048310784001
80.501799266451456
90.5020392047994471
100.5020798745319677
110.5020231278160172
120.5020331438474269
130.5020393161996012
140.5020362706048874
150.5020359581344673
160.5020365715258196
170.5020364560944077
180.5020363865908464
190.5020364229678902
200.502036425401884
210.5020364186097338
220.5020364200006843
230.5020364207603062
240.5020364203349171
250.5020364203176122
260.5020364203933785
270.5020364203764571
280.5020364203682705
290.5020364203732012
300.5020364203732898

参考

本記事はKQMによる余響4セット効果のマルコフモデル 4 を参考にした(図6).

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図6:余響4セット効果のマルコフモデル
バフ効果の発動はオンオフで解釈できるので,観測という概念を削ぎ落として簡潔に考えられている.